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黒瀬文平弁護士による不正な国選弁護人報酬請求は,故意にやったのではなく,過失だったとしても,大した違いはないものと考えます。

もちろん,故意でなければ詐欺罪は成立せず,不正に受領した報酬を返還すべき義務を負うのみです。しかし私が問題にすべきと考えるのは,故意でも過失でも「大差ない」と考えるのは,職業倫理違反の点です。

過失も無能も,非難してよい。
弁護士は,高い専門知識と職業倫理をもって公益的業務に従事する対価として,社会から,ある一定分野についての独占権を与えられているものと考えます。独占による利益が公益的活動に費やされるという循環が良いものとされ,許されるのは,社会の信頼あってこそです。

そうした弁護士たちには,社会からの信頼を護るべき義務があるところ,過失による信頼への違背も,その過失を生み出した無能すらも,非難の対象にしてよいものであると私は考えます。

まして接見の時期は後に自白の信用性を争うなどの事態が生じた場合には重要な事実となる以上,これを正確に記録しておくことは刑事弁護人として当然のことです。

黒瀬弁護士において非難されるべきは,不正な報酬の受領ではなく,弁護士に対する社会的信頼を毀損したことです。不正受領分が返還されたとしても,そのことは重視されるべきではありません。

本来,ノーチェックで当たり前。
毎日新聞の小林直記者は,
国の税金がノーチェックで弁護士に支出されていた。
容疑者の人権を守り冤罪(えんざい)を防ぐために、被疑者段階の 国選弁護が必要なのは言うまでもない。一方で多額の税金を投入する以上、ノーチェックで支出を認める現状は許されない。法テラスはもちろん、法務省、日本弁護士連合会は協力して改善策を打ち出すべきだ。
と述べ,自己申告制に疑問を呈しています(「国選弁護報酬水増し請求:「制度の根底揺るがす」 法テラス、言い値で支給」)。そのような批判が出てくることはもっともなのですが,しかし,この程度のことでもチェックが必要と言われてしまう弁護士たちは,社会から最低限の信頼すらも得られていないということにはならないでしょうか。

少なくとも,弁護士の統合的な理想としてしばしば呈示される「プロフェッション」とはほど遠い姿です。

そうなれば,弁護士たちに認められている自治権や,事業の独占といった特権についても,それを与える必要があるのかという議論に発展しかねません。

弁護士の基本である刑事弁護の分野において黒瀬弁護士が仕出かしたことは,国選弁護人報酬制度のみならず,弁護士制度をも揺るがすものと捉えるべきです。

国選弁護人の報酬は,まだ少ないのに…。
裁判員制度が施行され,刑事事件の公判が原則連日開廷となれば,弁護士の負担は益々増えます。最近は,冒頭陳述で検察官がパワーポイントを使用することが増えましたが,検察官・検察事務官は,資料作成時間についても給与が支給されます。残業などをすることにはなるでしょうが,それでも最低限の給与は出ます。これに対し,弁護士は,当該資料作成時間からは全く報酬が発生しません。他の仕事を圧迫するので,間接的に,他の仕事からの報酬すら削られましょう。

先般,国選弁護人に対する報酬が引き上げが決定されましたが(「国選弁護人の報酬UP、裁判員制度開始にそなえ…法務省方針」参照),医者が患者の生命を守り,聖職者が信徒の魂を救済するのと同様に,弁護士が市民の社会的地位を護ることに対する報酬としては,依然として少ないという議論も十分あり得る額です。

報酬の増額は,弁護士たちの専門知識と経験に対する正当な対価を確保するのみならず,水増し請求する必要性を根本から奪い去る方策としても機能し得るものだと思うのですが,ただでさえ刑事弁護の意義が理解されにくい昨今(橋下弁護士による懲戒請求先導の事例を想起せよ),今回の一件で増額が頓挫しないことを願うばかりです。

弁護士には護るべき倫理があり,その一部は弁護士職務基本規程にも盛り込まれています。しかし,誇り高い弁護士ほど,倫理的規程を嫌います。そのような縛りがなくとも当然護られるべきものについて規則・規程が存在することそれ自体が恥であると感じるためでしょう。

岡山弁護士会におかれては,除名を念頭に,厳しい処分を検討されるよう期待します。


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